読書メモ
小説のあらすじや感想・コメントを紹介します。
おすすめ小説 10作品にも挙げた短編。
著者は夢野久作。昭和初期の作家で、怪奇幻想小説の傑作を多く残しています。
三大奇書の一冊『ドグラ・マグラ』はご存知の方も多いのではないでしょうか?
愛と狂気。夢と幻影。エロとグロテスク。残酷ながらも甘美な世界が描かれる。
今回紹介する『死後の恋』は、そんな夢野久作の魅力が凝縮された傑作短編!
『ドグラ・マグラ』は難解で挫折してしまった、という方にもオススメです。
あらすじ
ロシア革命直後のウラジオストック。帝政ロシアの貴族の血を享けているという男、ワーシカ・コルニコフが語ったのは、血と煤にまみれた宝石にまつわる世にも不可思議な物語だった。
そうして、私の運命を決定して下さるお方があったら、その方に私の全財産である「死後の恋」の遺品をソックリそのままお譲りして、自分はお酒を飲んで飲んで飲み死にしようと決心したのです。
夢野久作『死後の恋 -夢野久作傑作選-』新潮文庫
ペトログラードの革命で家族や財産を奪われ、自暴自棄の考えから白軍の兵隊に加わった男は、リヤトニコフという少年兵士と出会い、兄弟同様の仲になる。お互いに惹かれ合い、隙さえあれば政治や芸術の話に興じる二人だったが、そんな楽しみも束の間、所属する分隊に連絡斥候としての危険な任務が言い渡される。
出発前夜、男はリヤトニコフから重大な秘密を打ち明けられる。うら若い一兵卒のポケットに隠されていたのは、選り抜きのダイヤ、サファイヤ、ルビー、トパーズ、など、両親から形見に貰ったという見事な宝石たちであった。
斥候旅行の途中、一隊は赤軍の計略に嵌まって全滅してしまう。左の股を撃たれて気絶している間に、たった一人、難を逃れた男は、ある欲望に突き動かされて、戦友たちが追い込まれた森の闇の中へと這いずっていく。
それが果して生きた人間のため息だったかどうかわかりませんが、私は、何がなしにハッとして飛び上がるように背後をふり向きますと、そこの一際大きな木の幹に、リヤトニコフの・・・
夢野久作『死後の恋 -夢野久作傑作選-』新潮文庫
男は森の奥で「死後の恋」の神秘に魅せられて・・・
感想・コメント
冒頭にも書いた通り、日本三大奇書の一冊『ドグラ・マグラ』を生み出した奇才・夢野久作の短編です。
私も大学生の頃に『ドグラ・マグラ』に挑戦しましたが、当時はなんとか読破したというだけで、物語を味わい尽くすことができませんでした。あれから約10年が経ち、いつかまた挑戦したいと思っている今日この頃です。
さて、この『死後の恋』は文庫本で約30ページに収まる短編小説。だからと言って侮るなかれ、短編だからこそ、夢野久作の生み出す「狂気」をぎゅっと凝縮して堪能することができる作品になっています。
この『死後の恋』で用いられている、語り手が一方的に聞き手に語りかけるというスタイルは、夢野久作の小説ではよく見られます。新潮文庫『死後の恋 -夢野久作傑作選-』にともに収められている『悪魔祈禱書』や『支那米の袋』のほか、書簡という形式をとってはいますが『瓶詰地獄』も同じスタイルと言えるでしょう。聞き手(としての読者)は、夢か現か幻かもわからない、狂気を煮詰めたような物語を、ひたすらに浴びせられることになるわけです。
血と煤にまみれた宝石をめぐる真実(あるいは、それはすべて男の妄想なのかもしれませんが)、男とリヤトニコフに訪れる残酷な結末、エロとグロテスクの真骨頂には、しかし、どこか美しさを感じずにはいられません。
狂気と幻影が渦巻く夢野ワールドに、あなたも足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?
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